覚悟

金曜日に免疫療法の病院にいく。
看護婦さんたちが親切に面倒を見てくれた。
血液を扱うため現在の病院で感染症の検査をした。
紹介状の中に検査結果がないとのこと。
また例のあいつだ
その場で携帯からかけるも、所定用紙がみつからないとのこと。
検査伝票だけなんとか見つけさせFAXで送らせる。

免疫療法の医師はゆっくりした言葉で、いろいろ喋ってくれる。
本来は免疫だけやればいいのにどうしたら全体的に現状を少しでも改善できるか
いろいろ考えてくれている。

なんとか少量の血液をとり、培養してもらえるらしい。
ただどう考えても本人の移動は無理だ。先生も同意見である。

家庭でも採血点滴ができると聞き、また病院まで戻る。
出掛けに看護婦さんが、ここでの治療は無理かもしれないですけど応援していますよと言ってくれた。

土曜日、在宅ケアの医師に会いに行く

ホームページからメールで質問、外来としてきたらといわれ電話予約をして朝一番での外来となった。
医師と看護士の女性と二人で話しを聞いてくれた。
にこやかな顔でいろいろ質問してくれていた。
いろいろなことを言ってもらった。嬉しかった。

その時思った。妻は死ぬ。しかも遠い未来でなく近い将来確実に。
実感が湧いてしまった。

在宅で看護ができるものなのだろうか

  • できますよ-

点滴やらなんやらいろいろあるけど

  • 簡素化できますし、病院のものを考えないで下さいね-

急な症状の変化はどうすればよいのか

  • 電話してください。24時間Okです-

医師や看護士も定期的しかこないのか

  • 必要に応じますのでそれこそ毎日伺っているのもあります-

小さな子供がいるのだが母親が苦しんで死んでいくのをみて大丈夫だろうか

  • 病院にいってなかなか会えなくなってなにも言わなくなって帰ってきたらお母さんがどうなったかわからないと思います。経験上在宅でみとった子供は立ち直りが早く思い出が多いです-

#涙が止まらないよ#

私にできますか

  • お手伝いをするために我々がいます。そばにいてあげればいんですよ-

医師はそれまでのにこやかな顔から一気にきびしい顔になっていった
「残念ながら我々が看てあげるには遠すぎます」
それは承知していた、いくつか紹介してもらえればいいのになとかすかに思っていた
「これから看てもらえるか連絡をとりますのでしばらくお待ちくださいね」
「!!」
診察室の外の待合で看護士さんと細かい質問をしていると医師が大声で電話しているのが聞こえる。
家の場所をいい、妻の症状を言い、聞いてくれている。
いくつも聞いてくれている。
医師の本が飾ってあった。
「最初にメールでおすすめの本を教えてもらったけれど売ってないんですよ。細かいお話もしたんでやっぱりお勧めかわりますかね」
医師に確認して2冊でてきた。
紹介状をもらい、会計になった。
「5250円です」
「え?それは外来相談料でしょ?本代は?」
「さしあげてとのことです」
ビックリしていると医師が診察室から出てきた。
「そこで見てくれるから大丈夫。ちゃんと話をしておいたからね。」
「ありがとうございます」
「なんか質問がでたら電話で聞いてね。そうしたら向こうに角が立たないようにうまくいっておくから」
泣きたくなった。嬉しかった。
そういえばこの人最初の方であなたが大変だろうに大丈夫と聞いてくれたな。
感謝しながらそこを出る。ビルの外で確認すると2冊で3600円だ。
紹介状かいたら5000円取られるのが普通だぞ
これでどうするんだよ
あんた俺に1時間半時間を割いて病院見つけてくれたじゃないか
もっと金取れよ

電車に乗るために歩きながら思った
今後相当な事がおきる
ほとんど私が重大な判断を下さなければならない
本人は今以上に症状が進行するとイライラし、混乱し、私にあたるようになるだろう

それでも

家で逝かせてやる
子供の前で逝かせてやる

#ディスプレイがみえないよ#

地下鉄の中には休みのためか親子連れが多い
君たちその幸せを大事にしたまえ
幸せは幸せと意識しないから幸せなんだよ
そんな光景を見ながら涙ぐむ
へんなおっさんが地下鉄でハンカチ握って涙ぐんでいる
あんまり変に見られないらしい
そうか花粉症の季節だったんだ
そういえば毎年この季節はこんな思いだな

病院に行った。義母は昨夜は病院に泊り込んでいた。
そこでなにやら顔見知りの若い看護婦に主治医の悪口をいって困らせていた。

「家に帰れるぞ」
「いつ?」
「来週の木曜日の午後に外来で言ってくる。具体的なのはそれからだが3月頭だろう」
「どんなところ?」
「24時間電話受け付け、必要に応じて往診。看護婦も必要に応じる。安心できるぞ」
妻は目をまっすぐ向けて聞いた
「家で看取れるか」
私はまっすぐ見返して言った
「家で逝かせてやる」
妻は良い笑顔で笑った
「まだ死なねぇよ」
私も笑った
「そう簡単に逝かせるか」

妻と私と看護婦はその後談笑していた。
久々に笑顔だった。
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最初から親切にしてもらっている怖いと言われているベテラン看護婦さんは
主治医に意見したらしい
全然分かってなかったと残念そうに言ってくれた
彼女は本当に親切にしてくれる
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やる事は決まった
あとはやるだけだ