パンケーキとガンダムと(2)

さて、それからが大変だった。
入院日は2002年1月9日になったので入院のしたくをしなければならないし、息子は幼稚園に4月に入園するので事前保育もあった。

特に問題となったのは子供の入園準備だった。
入園説明会やらなにやらが2月にたくさんある。

買うものは買い、用意できるものは用意してそのうちに入院の日を迎えた。

13:30までに入院受付をすませるようにとの指示なので、実家に子供を預けて病院にでかける。
実家から手をふる子供にしばらく妻は手をふりつづけた。

入院受付をすませCTなどの検査資料を渡され、入院病棟へ。
ナースステーションに声をかけ、資料をわたして部屋を教えてもらう。
一番の奥の部屋らしい。
部屋にはすでに同室の患者さんがいた。どうやら今日入院で同じ日に手術らしい。

それにしても幽霊でもでそうな古い病棟、病室である。
しばらく待って担当医師の説明を受ける。

さんざんインターネットで妻が調べたり、私なりにしらべた話である。
が、担当医は実に明確にずばっと説明する。ただ嬉しかったのは「一日でも早く退院できるようにお互いにがんばりましょう」といわれたことか。
誰にでもいっているのであろうが、妙に心強く聞こえた。

我々の説明が終わっても同室の人はぜんぜん説明がない。
うちの手術が朝9時から8時間はかかると話したら「手術室は2つあるんですかねぇ」と心配してる。
そりゃぁあるでしょうというと妙にほっとした顔をしていた。
やはり誰でも不安らしい。

妻は身長体重をはかり、採血を受けた。
病室はなんだか妙に寒い。
同室のだんなさんが温度調節を高くしたのにいつのまにか切れている。
看護婦さんはそういえば「たまに動いているふりするときがあるんだよね」といっていたっけ。大丈夫かここ?

病室にはプリペイドカード式のTV、100円で12時間の冷蔵庫がある。
ただそれだけ。妻はひまなのでベットのレバーをあちこち廻し、「おっ、頭があがる!」とよろこんでいた。

病院の喫茶店兼食堂にいってコーヒーを飲む。壁に「新鮮!マグロ刺身定食」と書いてある。値段はとみると「時価」。ますますもってあやしい病院である

なんだかんだで5時近かったので実家にかえる。途中の車内でなんだか切なくなった。
実家に戻ると子供はおとなしかったらしい。
家の車庫に入れた時、初めて「おかあさん、歩いて帰ってくるのかな」という。
「お医者さんがいいよっていうまで帰れないんだよ」というと納得した様子だったが一緒に風呂に入っていると「おかあさん、あしたかえってくるのかな」というので「だいぶかかるからね。いちどお見舞いにいこうね」というとそれ以上の言及はなかった。
しかし風呂上がりにいつも妻に体を拭いてもらうので風呂から出た瞬間、「おかあさ・・・・」で言葉をとぎらせたのにはまいった。

やはり三歳でもわかっているのだ。

寝かしつけていると「おかあさんを病院におとうさんと送りたかったよ」という。やはりあれは無理していたのかと泣けてきた。
「よし、こんどの土曜日に病院に会いに行こうね」というと「うん!」と元気よく返事をし眠った。


息子は翌朝目覚めると、妻の布団をめくった。

「おかあさん、いない」とつぶやく。
そのあと、「おかあさん、おいてきちゃったの?」。

きつい、きつすぎる。
「まだなおっていないからね」というと「おとうさん、おしごと?」「そうだよ」「ぼく、おとうさんいないとさびしいな」と膝にすがる。
朝から半泣きで子供を抱きしめながら「すまないねぇ」とあやまる。